2/09/2012

フランスの原発事情

国内74%の電力供給を58基の原発に頼る原発大国フランスでも、
福島での事故を受け、政府に依頼された会計検査院が
原発を廃棄するためにかかるコストとやらを実際に見積もり始めました。


それによると、
2022年までに仏の22基の原子炉の稼動年数が40年を超えることになり
(原子炉の耐用年数は40年。以降は投資してメンテナンスが必要)、
原発を廃棄しても、維持するためのメンテナンスをしても
どちらにしろ高くつくとのことで、
「電力供給には原発が一番安価だから」とする神話は
完全に崩されたようです。


また、58基の原子力発電を廃棄するのにかかる費用を計算したところ、
184億ユーロ、一基あたり3億1700万ユーロ=約317億円!
(1ユーロ=100円換算)

と、とんでもない金額に。しかしこれは氷山の一角の見積もりに過ぎず、
例えば現在ブルターニュ地方のFinistereにある廃棄中の原子炉には、
実際既に4億5000万ユーロ以上もかかっており、
まだ作業を終了せずともこの値段。
そのため、今回の見積もりは過小評価されているのも事実。


結局、廃棄にかかる予算は、今回の計算の2倍どころか、
4倍にもはねあがるとされ、その場合メガワットあたりの
電力生産コストが20%上昇することもまぬがれないそう。
ただでさえフランスの電気代は高いのに、どうなってしまうのか。

今回の見積もりは誤差があり欠陥があるものの、
原発は結果予算的に高くつくもので、さらには原発推進派のサルコジ政権に矛盾が
生じてきたわけです。
そのことが判明した今、マニフェスト好きのフランス人の今後に注目が集まりますね。


フランスの新聞Le Mondeネット版の記事より、
今回見積もりをしたフランスの会計検査院がインタビューで
答えていた要点です。


1.“原子力発電部門の諸経費”についての報告書は、昨年5月に政府から会計検査院に依頼され、1月31日に公表された。
2.原子炉を維持するメインテナンスのための経費は、きたる15年で現在の2倍になるだろう。それに伴い電力生産コストも10%増。
3.2022年末までに、58基の原子炉の内22基の稼働年数が40年を超える。一般の定説(原子炉の耐用年数は40年)と、国内電気生産量の74%を原 発に頼っているフランスの現状を見れば、このままの形で原子力に頼るにはこれから短期間でかなりの投資が必要。政府がこの費用を捻出出来るかどう か・・・。政府は、エネルギー政策において、自らの選択をきちんと公にした方がいい。
4.今のままだと2つの選択肢がある。1、原子炉の延命措置、2、他のエネルギーとの共存。
5.原子力のメリット:エネルギー自給率を高める。地球温暖化のCO2ガスをほとんど出さない。デメリット:人体への悪影響。河川の温水化を招く。
6.何故レポートで提示された金額は過小に見積もりされてると言われるか?ー別に何か隠している訳ではなく、不確定要素が多いため。例えば使用済み核燃料 の処理にかかる費用、正式機関(ANDRA)が2005年に出した見積もりが、2009年には2倍になっている。原子炉の廃棄にかかる費用については、 EDFから提出された数字が既に過小に見積もりされている。
7.EDFが提示する、事故の際の民事責任の賠償額上限はわずか9200万ユーロ(1発電所あたり)、国際的な規範に基づいて7億ユーロにする事を勧める。それでも少ないくらいだ。

※EDFとは、フランスの電力会社。我が家もここにお金を毎月お納めし、電気を使っております。


また、同様にフランスの原子力施設を有する市長たちが
今年1月に福島に視察に行った時の記事の要約です。
彼らの発言、そしてフランスでその事態が
どう報道されているかが分かります。

【“見えない敵”と対峙するフランスの市長達】
(2月2日ルモンドネット版記事要約)

 フランスの原子力関連の施設を有する地方自治体の長ら(フェスナイム、ラ・ハーグ、ストラスブール、シノン、etc)8人が、地方自治体を国際的にプロ モートするフランスの機関、Cités Uniesと日本の機関Clairに招かれて1月12~14日、昨年3月11日の福島第一原発事故で被害に遭った自治体の原発危機への対応を視察するため 福島県を訪れた。
 彼らは、福島の自然の美しさに感嘆するとともに、地震やツナミがもたらした被害、とりわけ原発事故の被害を目の当たりにし、あまりの規模の大きさに驚い た。放射能汚染で、事故の起きた原発の半径20km内に住む、およそ10万人の住民が避難した。汚染除去は40年以上かかるとされ、復興にかかる費用は1 兆円を超えるとされる。数年後には、汚染による健康被害の問題が出てくるだろうし、放射能汚染は長期的に続くだろう。この現実を見て、自分たちの美しい土 地が、福島と同じ運命をたどるかもしれない可能性を考え、動揺を隠せないコメントが続いた。「この土地に、将来誰が住みたいと思うのだろう?どの企業が来 てくれるというのだろう?」
 40Km以上事故地から離れているにもかかわらず、高放射性物質を大量に含む雲の通り道だったため6000人の住民を避難させなければならなかった飯舘市 の市長には、“見えない敵”と戦う辛さや、汚染除去の困難により住民がいつ街に帰れるのか予想もつかない事、ツナミの被害にも遭い、一部が20Kmの避難 指定区域にかかっている南相馬市の市長には、政府や上層機関からの、情報、命令、物資などが一切来ず、孤立無援状態で住民を避難させる決断をしなければな らなかった事、事故の起きた原発の責任者も同様の状態に置かれたこと(東電本社からの指示が一切なかった)、など、実際の事故の際の政府や上層部の無責任 さを聞かされ、原発推進派のボーモン=アーグ市(ラ・アーグの使用済み核燃料再処理工場の近隣に位置)の市長でさえ、「事故が起きるという可能性は常に考 えないといけない、安全のためにはお金を惜しまず、国家的事業として扱わなければいけない」とコメントした。他には、「フランスで原発事故が起こったら、 通常は知事が住民を避難させるかどうか決断するはずだ。でももし(日本のケースのように)上の者が決断しなければ我々はどうしたらいいのか」、「日本政府 はその内に、放射能汚染の問題の解決には40年以上もかかる事を認める勇気を持たなければいけない」、「EDF(仏の電力会社)も事故が起これば Tepcoと同じように振舞うだろう」、「住民の避難の際、警察、消防、バスの運転手などを、そんな危険な地域に行かせてもいいのだろうか、彼らの安全は どう保証するのか」などのコメントが出た。

 アルザスのフェスナイムや、ジロンド県のブライなど、老朽化や、地理的に不安定な場所(浸水の危険性など)にある発電所もある。フェスナイムなどは、ストラスブール市が政府に再三閉鎖を呼びかけているが、政府は聞く耳を持たない。
最終的に、原子力エネルギーの未来を考えるにおいて、「我々はプロセスの全てを完全に制御することは出来ないし、場合によっては破滅的な結果を導く事もあ る」、「原子力エネルギーから抜け出す必要性があるようだ」、「原発のコストは年々値上がりしているだけに、エネルギー政策についての再考が必須。」など のコメントが参加者からでた。