6/03/2009

四ツ星の塀をよじ登る-guidée par le chat-


カヴァイヨン(cavaillon)のサン・ジャックの丘で会った人の
おすすめの地「
Gordes(ゴルド)」。



その見聞は見事に大あたりであった。
感嘆のため息が何度も出るほど美しい!



自転車を置き捨て、丘を駆け上ってしまうような
爽やかな人種の目は、確かであり澄んでいる。
今後のためにそう記憶することにする。


ここはまるで、フランスの中の「サントリーニ島」である。



崖を段々とおりてゆくように続く白いおうちと青い海、の代わりに、
シックな石造りの家と緑の山がすっぽりと額縁に収められている。
印象画家が好きそうな光景だ。
当時の才ある人にここを描く場所として教えてあげたい。
(余計なお世話だろう)



とにかく素敵すぎる光景に圧倒される。
何を撮っても嘘みたいになり、
人を撮ると浮いてしまい、光景にマッチしてくれない。
現実離れして見えもする。
写真嫌いな友人も、ためらわず写真に収まることにする。
ちなみにここは、イギリス人やドイツ人がこぞって別荘を買い求めてきた、
夢のリゾート地である。
私には年に一度の伊豆高原が精一杯である。



Gordesにもまた、第一次大戦で亡くなった
子供の兵隊へと捧げられたstatuがcentre villeの真ん中にある。


ここら辺は、石を積み上げて作られた家々が村をかたどる。



昔は家畜小屋だったらしく、当時のままの姿が残る
「village de bories」が車で5分程のところにある。
見事に石を積み上げて塀も家も造られているようだ。
既に閉まっていたので塀の中は見られなかった。



Gordesに着いた時、既に雲行きが怪しかった。
シトー派修道会(Senanque
)に行こうかなどさんざん道を迷い、
気付けばもう20時。
気ままなわたしたちは宿などとっていない。
そこで、村に入ってホテルを尋ねることにする。
しかしカフェで聞いたところは全滅。
仕方ないので、シラミ潰しにホテルをあたることにする。
B&Bがあったので、中に入って尋ねる。
「B&B(bed&breakfast)」の響きにテンションが一瞬おちる自分に気付く。
しかし、それは名ばかりで、
尋ねてみると庭には噴水があり、ひとつひとつがprivéの棟
になった上質な宿。



これでふたりで100ユーロもしない。
なんとも、あり得ない贅沢!
ここにむしろ泊まりたい。
しかし既に今日はcomplait。
がっくりして次を目指す。
連休なので、どこも既に予約でいっぱい。
マイペースなフランス人に負けるとは
どれだけのんびりなふたりなのか。

最後に残ったホテルは、四つ星。
大粒の雨が少しずつ足早に降り始める。
払えるか分からないが、とりあえず
雲行きに押されて一応そこもあたることにする。

車に友人を残し、
大きなゲートをくぐって長い小道を歩く。
すぐには着かない。無駄に大きい。



手入れされた木、整然と敷かれた白い小石。
やっと辿り着いたエントランスで人を呼ぶが、既にいない。
先ほど園内ですれ違った車が管理人か。ひと足遅かった。
古い館のようなエントランスは、
ひっそりとしていてプロヴァンスの人形などがこちらを見下ろしている。
恐がりの私には相当気味が悪い。
おまけに人の声すらしない。

恐くなって来た道を戻ると、
なんと
大きなゲートに頑丈な扉がしっかりと閉まっている。
この10分の間になんていう変わりよう。
ゲートの横に暗証コードを押すボタンがあるが、
残念ながら客ではないので知らない。
唖然としていると、大粒の雨が勢いよく降り出す。

もっと唖然としていると、
足だけが白い黒猫がなつっこく寄ってくる。
靴下を履いた猫みたい。可愛過ぎる。
猫好きの私はゲートが閉まった事実そっちのけに、
雨に構わず写真を撮る。
可愛過ぎる。
すると、その猫はゲートに飛び乗り、
木登りをして私を見下ろす。
身軽でいいな。あなた。

携帯で友人を呼び、心細いのでゲートの向こう側まで来てもらう。
「ここを越えるしかない」とゲートの向こうで友人の声がする。
ゲートの背はぐんと高いが、足場がひとつだけある。
「え。まじで。無理無理。最近運動してないし。」と思う。
「てっぺんまで来たら私が支えるから。私を信じて。」と向こう側で友人が言う。
本気で躊躇して迷う。
しかし、時速130㎞の彼女の運転も既に信じてるしな、
などと考える。
この旅では、彼女に「信じて」という言葉を3回程言われた。
慎重な私は、勢いをつけて人を信じるということを
彼女に教わった気がする。
ありがたい。
いつまでも忘れられない体験だ。

すると、猫が木の上からこちらへとゲートの上に飛び乗ってくる。
私をいざなっているのか?
いよいよ決断の時。
猫が可愛い素振りでプレッシャーを与えてくる。
そうだ。
猫にもできるのだから、私にできないはずはない。
可愛い猫と張り合うことにする。

そして私は、猫に導かれるように
その四つ星ホテルのゲートに乗り、
無事向こう側へと帰る。



高級リゾート地で何をやっているのかよく分からないが、
とにかく宿が決まっていないことに焦りを感じてくる。

宿を求め、
Gordesよりもリゾート地ではなさそうな名の響きの、
Rusillion(ルシヨン)という村へ走ることにする。

一人旅なら必ず一日前には宿をとるけれど、
車でのふたり旅なら断然こんなぶらり旅が好きである。
思いもよらぬ出来事が待っていて数倍楽しい。

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