7/12/2009

メトロのエレベーター缶詰事件-oh les pompiers-

トロのエレベーターに閉じ込められた。

パリは22時まで明るい。
なので17時頃、フラッと日曜公園へと散歩に出掛けた。
その帰り道であった。


家の最寄りの12番線、Lamarckでの出来事である。
約25人の乗客が、
蒸し暑いオーブンのような機械の中で
フュメされる寸前であった。


Lamarckでは、メトロを降りた後
出口に着くまで、ながいながい、それはながーい階段を
昇り詰めなければならないため、
いつもエレベーターを使っている。
階段を昇る巡業者のような人物はあまり見たことがない。


そのエレベーターは、ボタンも何もない自動運転である。
普段からちょっと恐いなと思っていた。
開けだの閉じろだののボタンがないのだ。

エレベーターに乗ってもすぐには出発しないので、
今日はipodで音楽を聞きながら、本の続きを読んでいた。
1分程経って周りがざわつきだした気配がしたので、
イヤホンを外してみる。
すると、扉が閉まったものの、
どうやらエレベーターが動かないようである。
なに、すぐに動くだろう、と皆が思った。
しかし動く気配がない。
2分後、隣で立っていたおじさんが、緊急用のボタンを押す。
状況を伝えていたのだが、途中で途絶えてしまう。

ここ一週間、パリは寒かった。
昨日まではレザージャケットを着ていた。
しかし今日に限って蒸し暑さがうっすらと戻って来ていて、
5分缶詰になった後はすっかり息苦しくなってきた。
緊急用のボタンは、動じない。
ずっと話し中である。

次第に乗客はざわざわとし出す。
ドア付近に立っていたアジア人と西欧人のカップルが、
ドアをドンドンと激しく叩き出す。
後ろの人が、叩くのはやめてと言う。

こんな映画をみたことがある。
「cube」だったかな。
あれは結局どうなったっけ、などと考えていた。
もしこのまま夜を過ごすことになったら、
メトロの異臭どころではない異臭がするんだろうな、
などとも考えていた。

一人のフランス人女性が、
出口で待ち合わせしているらしき友人に電話で状況を伝えている。
ある中年を越えたマダムは、呼吸困難になりそうな状況らしく、
泣き出した。
後ろに立っていた黒人の男性が、雑誌で扇ぎ
マダムに風を送ってなだめる。
私は彼女の背中に祖母の面影を思い出し、
その背中をさする。
大丈夫、大丈夫と。

これ以上誰もパニックを起こさないようにと願いながら、
さらに待つこと3分。
問題への対処が遅いとわりと短気になる私は、
何で誰も何もしようとしないんだろう、
と疑問に思い始める。
緊急用のボタンに近づき、しきりに押してみる。
しかしずっとお話中である。
誰かに電話をしていたマダムに、
消防署に電話をしたほうがいいのではないかと話しかけてみる。
そうね、と、そのマダムはほかの人たちに同意を求める。
パニックになってから消防員を呼んでも遅い気がした。
パニックになった25人の人間に囲まれては、正常でいる自信がなかった。
身の危険を感じ始めたちょうどその時、
ドアの向こうに消防隊員が立っているのが見えた。
約13分間の出来事である。



ドアが開くと、みな何ごともなかったかのように
やれやれ、と出て行った。

「こんなことはよく起こるのか?」と
マダムに聞いてみる。
「今迄経験したことはないが、起こらないとは言えない」
と言う。



エレベーターの中の乗客を外に出した後、
ドアを開けてくれた消防員たちが
エレベーターの中に入っていった。
「あっつい!」
と笑いながら叫んでいる。

そう、暑かったよ。
そして息苦しかったよ。

日本でこういう状況にあったことがない私は、
わりと人間は暢気なものである
という事実を目の当たりにし、驚いた。

あの中で何かしようと行動していた人は、たったの4人である。
ラテン人だからスロウなのだろうか。
私は日本人なので、すぐさま、という思考回路。
どうもフランス人の行動パターンが理解できない。
いろいろな仕事が分業されていて、次の仕事への流れは無視。
自分の責任が明確に区切られているその世界観。



LA POSTで送った荷物が盗まれた事件や、
エレベーターが止まってしまう事件。
もっといろいろなことがここでは起きているのだろうが、
これ以上体験するつもりはない(のだけど)。


部屋に戻り、とりあえず警察と消防署の
連絡先を携帯に登録する。


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