4/21/2011

いつか見た空に

右隣の席には、いつも人を笑わせようとする
気配が漂った。
消しゴムを借りて「ありがとう」と言うと、
「どう板前さん、トントントン、一丁あがり」
と言って私を笑わせる。
もう一度やって、と言うともう一度やってくれる。
彼は、そんな人だった。
私たちの高校では、外苑祭というものがあって、
毎年全学年がミュージカルの出し物をやる。
夏休みから秋口にかけて明治公園に集まって、
その練習に励む。青春真っただ中な高校だった。



外苑祭が無事に終わった日、
夜は明治公園で打ち上げをした。
それから途方もなく絵画館前から四ッ谷まで歩いて、
最終的に代々木公園で野宿をしようということになった。
みんな、何故か外苑祭で使った段ボールや
暗幕をひっさげていて、
演出用のメイクもそのままだった。
何を語ったかもう15年前の話しだから
覚えてないけれど、
自分達のことを「ルンペン隊」と 呼んで
馬鹿笑いをしていた。

 結局その日は代々木公園の大きな木の下で
段ボールを敷いて、
1列になって暗幕をかけ眠った。
翌朝目が覚めると、
頭のうえには大きな空が広がっていて、
赤、ピンク、パープルに染まっていた。
開けた空間で見た空が初めてで、
この上なく広く迫ってきた。
「アフリカの空は、こんな感じなのかな」
私は思った。
きれいだね、とみんな口にしていて、
いつの間にか目を覚ましていた。
そして、あなたは何を思っていたのだろう。

特別なその日のことが、
いつまで経っても忘れられない。



彼は、永遠にその日のゆったりと伸びてゆくような
空間に存在する。
卒業してから同窓会で一度会ったきり、
電話で話したのを最後に何年も会っていなかったけど。
私の知る彼は、
その日のまま変わっていなかったに違いない。

いつか分け合った広くて自由な空の中。
 二ツ川亮太くんが、
安らかに笑っていられるように。

心からご冥福をお祈りします。
どうもありがとうね。

1 件のコメント:

  1. たくさんの人に読んで頂いて、
    本当にありがとうございました。
    自分なりに遠くフランスの空より、
    二ツ川君へのいい供養ができたように思います。
    彼がどういう人だったのか、
    私という人間の記憶のカケラに映してお伝えできたら。
    ほんの一面だけでも。
    これからもこのブログに時々立ち寄って下さいね。
    それでは、日本のみなさんおやすみなさい。
    フランスのみなさん、 bonne soirée.

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